
最近、職場でよく聞く「心理的安全性」という言葉。健全な議論やイノベーションを生むためには不可欠な要素だとされています。しかし、この概念がひとり歩きし、「過剰な配慮」へと変質しているケースも少なくありません。
「心理的安全性があるから、何を言っても大丈夫」という安易な考え方は、チームにとって本当にプラスなのでしょうか?
◾️本来の「心理的安全性」とは
この概念は、チームメンバーが対人関係のリスクを恐れることなく、自由に意見を述べたり、質問したり、あるいは間違いを認めたりできる状態を指します。健全な衝突や議論を通じて、より良いアイデアを生み出し、チーム全体のパフォーマンスを向上させるための土壌なのです。
しかし、過剰な配慮が行き過ぎると、この本来の目的から逸脱してしまいます。
◾️思考停止に陥る「ぬるま湯」状態
「誰も傷つけないように」「角を立てないように」という配慮が最優先されると、建設的な批判や厳しい意見は封殺されてしまいます。結果として、誰も本音を言わない「ぬるま湯」のような状態が生まれてしまうのです。
この環境では、以下のような弊害が起こりやすくなります。
* 議論が深まらない:異論を唱えることがはばかられ、誰もが賛成の姿勢を見せるため、表面的な意見交換に終始します。
* 責任の所在が曖昧になる:失敗の原因を個人に帰属させないようにと配慮するあまり、問題の本質的な解決が進まないことがあります。
* 優秀な人材が離職する:成長意欲の高い人ほど、ぬるま湯のような環境に不満を感じ、より刺激的な場所を求めるようになります。
◾️健全な衝突こそ成長の源泉
本当に強いチームは、メンバーがお互いに本音でぶつかり合える関係性を築いています。それは、単に仲が良いだけの関係ではありません。
「このアイデアはもっとこうした方がいいんじゃないか?」「それは本当に顧客のためになるのか?」
こうした、一見すると厳しい意見交換の場こそが、チームや個人の成長を促すのです。
もちろん、相手を尊重する気持ちは絶対に必要です。しかし、それは「何を言ってもいい」という甘えとは違います。相手へのリスペクトがあるからこそ、耳の痛い意見でも真摯に受け止められるのです。
◾️「心理的安全性」と「馴れ合い」を履き違えないために
過剰な心理的安全性への配慮は、チームを「思考停止のぬるま湯」へと変えてしまいます。本当に必要なのは、単に「心地良い」だけの関係性ではありません。
お互いを高め合うための「健全な衝突」を恐れない勇気です。